高級和食食材を世界へ。
自社の冷凍輸送技術を活用した
食品加工ビジネスへの進出。
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高級和食食材を世界へ。
自社の冷凍輸送技術を活用した
食品加工ビジネスへの進出。
市場の活性化と新規事業を目指し
水産物の冷凍加工事業が発足。
鴻池運輸は2030年に向けて、中期経営計画を掲げている。その計画達成に向けた施策の一つとして、将来のビジネス基軸になる新規事業の立ち上げに力を入れている。2019年4月、大阪ミナミの都心部にほど近い大阪木津卸売市場に「食品加工場kizu process center」を開設したのも、その一例だ。水産物を切る、煮る、焼く、蒸すなど、食材の加工工程から味付け調理までをワンストップで行う冷凍加工事業を新たにスタート。すでに食品事業本部では多くの食品メーカーを顧客に、食品生産の請負業務を行っているが、今回は食材の仕入れから製造、販売までを一貫して手掛ける、グループ初の取り組みになる。
きっかけは2016年、大阪木津卸売市場から市場活性化支援の要望が寄せられたことだ。約300年の歴史を持ち、かつては「浪速の台所」と呼ばれた同市場も、近年は流通の多様化・スピード化の影響を受け、衰退傾向にあった。鴻池運輸は市場の意を汲みつつ、自社にとっても有望な新規事業について検討を開始。2年近くの準備期間を経て、行き着いたのが水産物の冷凍加工事業だ。同事業が市場に不足している機能を補完して、市場の活性化に貢献できることに加え、自社の冷凍輸送技術を存分に活かせる一大ビジネスへの成長の可能性を見たわけである。
コンサルティング会社とのタッグで
未知なる業界に果敢に挑んだ。
プロジェクト始動後、顕在化したのが冷凍加工事業に関する知識とノウハウの圧倒的不足である。加工場全体の仕様や構造、必要な設備類、専門人材の確保のほか、顧客開拓といった未知の領域に一挙に直面することとなった。これらを解決するため、鴻池運輸は食品加工業務に精通したコンサルティング会社に協力を依頼し、まずは加工場施設の整備に注力。食材や加工作業の安全性を熟慮した工場内レイアウトを施すとともに、最新型の食材凍結装置やスライサー、自動加熱調理機など、高度な加工機器を次々と導入した。なかでも高濃度の塩水を利用する急速凍結装置は、従来冷凍技術の約60%の時間で食材の凍結が可能。魚介の鮮度や形状保持に抜群の効果を示す、他所ではなかなか見られないすぐれた機器だ。
続けて取り組んだのが人材確保と顧客開拓。事業を軌道に乗せるには自社ブランドをアピールできる独自の商品が必要ととらえ、コンサルティング会社の紹介を受け、海外で公邸料理人を務めた経験もあるシェフを工場内料理長として招いた。このシェフの指導のもと、本格和食を中心としたオリジナルメニューの開発を進めると同時に、実際の調理や加工に携わる現場スタッフの採用とトレーニングも推進。顧客開拓面では、コンサルティング会社のアドバイスをもとに商品提供先を精査し、生協や機内食等のケータリング企業、レストランチェーンなどの販売ルートにアプローチしていった。
商習慣の違いを乗り越え業界参入。
今後の事業進展に注目が集まる。
冷凍加工事業の開始段階で鴻池運輸を悩ませたのが、業界独特の商習慣だった。例えば、現金売買が商流の基本のため、仕入先市場の仲卸業者などには比較的短いスパンで代金を支払わねばならなかったり、生鮮食材の仕入れ量は水揚げの結果次第だったり。一定量の鮮魚を事前に発注しても、その日に獲れなければ「ない」のひと言で終わってしまう。また個々人の付き合いや信頼によってあらゆる取引がなされているため、「会社対会社」で行う定型のビジネス契約や感覚はほぼ通用しないに等しかった。鴻池運輸としては、可能な限りの組織的柔軟性とビジネス上の工夫を発揮して、こうした商習慣に対応。新参ながら軋轢を生むことなく業界参入を果たした。
加工場オープンからはまだ間もなく、事業として確かな結果が出るまでにはもう少し時間を要する状況。だが、国内における少子高齢化や健康維持の風潮を踏まえると、高付加価値な水産物加工食品のニーズは、今後ますます拡大していくに違いない。加えて、世界的に広がる和食ブームと鴻池運輸の物流ネットワークを考慮すれば、グローバルな食品輸出事業への変貌も決して夢ではない。産声を上げたばかりの冷凍加工事業が、これからどれだけ伸びてゆくのか、多方面からの注目が集まっている。
voice of project member
hideya kawashima
川嶋 秀弥
関西中央支店 大阪木津営業所 所長
1992年 入社
※所属部署及び、その名称は取材当時のものです。
既存概念が通用しないフィールド。
事業化までに入念な調整が必要だった。
冷凍加工事業立ち上げに際し、本社では、経営改革に関わる組織において、パートナーとなるコンサルティング会社の選定と連携、および事業の具現化に向けた社内外の各種調整を進めていた。しかし、鴻池運輸にとっては初めての食品加工業進出だったため、どのようにして業界への理解と事業展望を社内へ浸透させていくかが、最大のハードルとなっていた。
特に食品加工業は、人同士のつながりで大きな商売が次々と動くため、投資や買掛の決済を得るのに通常の企業間取引の手続きを踏んでいては、ビジネスチャンスがあっという間に逃げていく厳しい世界。関係各所を説得するために、パートナー企業との間で業界知識を吸収しつつ徹底的に議論を重ね、確たる事業理論を構築。その上で粘り強く説明し、社内の既成概念を払拭することと、事業運営上の全体最適を図ることに注力した。
困難続きの逆境をものともせず
オリジナル商品で顧客獲得に猛進中。
加工場の運営実務を統率するのは、大阪木津営業所の所長を務める川嶋だ。これまでにも国内外のさまざまな事業・現場で多彩なキャリアを積み重ねてきた猛者で、過去に冷凍冷蔵倉庫の新棟立ち上げにも携わったこともあるため、このプロジェクトの存在を聞きつけるや、自ら参画への名乗りを上げた。
「大阪木津は実は私の出身地で、知らない人は足を踏み入れるのをためらうような独特の土地柄なのです。それを熟知していたので、現地で新規事業をやるなら自分しかいないな、と。ただ、水産加工業はいざ始めてみると商習慣や仕事の進め方が経験してきたこととまったく違い、苦労の連続でした。コンサルティング会社に依頼して想定していた仕事が取れなかったり、仕事量の変化によって現場スタッフの雇用や稼働調整にも追われたり。私自身が加工場の全体管理から販路開拓まで手掛けているため、今も毎日が時間との戦いのような状態です。そんな中で工夫して作った商品が生協のお客様に採用され、出荷できたことは大きな自信になりました」
事業として伸びる可能性は間違いない。
独自ブランドの確立も視野に全力を注ぐ。
本社組織とともに苦心の末に土台を築き上げた川嶋が、この新規事業にかける思いは強い。
「まもなく大口顧客となる機内食への供給がスタートする予定なので、当面はb to bを中心に国内ビジネスの充実化に力を入れるつもりです。ビジネス拡大の手法としてはec販売※①を積極的に活用していきます。また、自社商品を食のイベントや商品アワードにどんどん出展して、ブランド力アップも図っていきたい。いつかは独自ブランドで勝負できる事業形態に育てることを夢見ています」
鴻池運輸が手掛ける多くの事業の中で、食品加工事業が確立できれば、新しい業績基盤になるだけでなく、物流業界初の取り組みのため、高い企業広報効果も見込める。成長産業であることも踏まえれば、業界上位の企業と同等程度の売上高に届くことも見込め、いずれは独立事業体に発展させられる可能性もあるなど、本事業に対する展望は広がる一方だ。
川嶋をはじめとする食品加工事業に取り組む社員は、今後に対する明確なビジョンと目標を心に描き、その実現を目指して全力を注ぎ続けている。